豊富な語彙力とセンスが光る言い回し。尾崎世界観/千早茜『犬も食わない』
「だめな男」と「めんどくさい女」。「結婚とか別れ話とか、面倒な事は見て見ぬふりでやり過ごしたい」「ちゃんと言ってよ。言葉が足りないから、あたしが言い過ぎる」――脱ぎっ放しの靴下、畳まれた洗濯物、冷えきった足、ベッドの隣の確かな体温。同棲中の恋人同士の心の探り合いを、クリープハイプ・尾崎世界観、千早茜が男女それぞれの視点で描く、豪華共作恋愛小説。
〈BOOKデータベースより〉
結婚か。どっちでも良いけれど、できればこのまま、難しく考えず、馬鹿でいたい。そうでもしないと本当に馬鹿になってしまいそうで怖い。馬鹿にならない為に、馬鹿でいたい。
小気味いい2人の掛け合いが心地よくて一気読みしてしまった。
小説を読んでいて、素敵な言い回しや、なるほどと思った箇所に黄色いマーカーを引く習慣があるんだけど、
この本に関しては、教習所で使う教科書かってぐらい一面マーカーになってしまった。
家のどこかにはあるという安心感と、でもこの家のどこかはわからないという緊張感、いつだって、探したり見つけたりしていないと飽きてしまう。同じ場所に当たり前にある物に魅力を感じ続けるのは難しい。
こっちがむず痒くなるほどの噛み合わない2人。でもきっと誰もが経験したことのある感覚な気がする。
しかし、全く似つかない2人が、ピタリと噛み合うシーンは微笑ましく、痛快である。
それにしても、なぜこんなにリアルなのか?
細かい描写や豊富な語彙力などいろんな要素はあるが、やっぱり
千早茜と尾崎世界観という、赤の他人の男女が描く共作だからなんだろうという結論に至った。
だからきっと、ここまで生々しい。
ついでに言うと、
脇役のクオリティが高い。いちいち個性が強い。
性格を映し出す描写がすごく丁寧で、まるで目の前で繰り広げられているような錯覚まで起こす。
自分の左手には、吸い殻を入れたコーヒーの缶。(略)冷房なのか、暖房なのか、建物全体によくわからない風が吹いていて、缶のフチに溜まった煙草の灰はなんだか嬉しそうだ。
「あら、金木犀。いい季節よね、今夜はお酒が美味しそう」と微笑む。彼女ならどんな季節でも良い季節にしてしまえるんだろうな、と思った。トイレの芳香剤の匂いかと思ってしまった自分の感性の貧しさを呪う。
ストーリーもいいが、特筆したいのは、
豊富な語彙力と、センスが光る言い回し。
日常のほんの些細なことを、ここまで綺麗に言葉にできるなんて、と感動すら覚えた。
その上、無駄がない。
時々、2人の言葉に図星を突かれる。
想像力豊かでトリッキーな比喩ながらも、なぜか腑に落ちる。
【まとめ】
読みやすさ ★★★★☆
言葉選び ★★★★★
ストーリー ★★★☆☆
中毒度 ★★★★☆