独断と偏愛

とにかく現実から目を背けたい20代フリーター

少女はやがて女に。金原ひとみ『TRIP TRAP』

 

 

金原ひとみ『TRIP TRAP』

 

 

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中学校にも行かず半監禁状態の同棲生活。高校は中退しヤクザに怯えながらもナンパ男を利用して楽しむ沼津への無銭旅行。結婚後、夫への依存と育児に苦しみながら愛情と諦念の間を揺れ動くパリ、ハワイ、イタリアへの旅。そしてふと生きることに立ち止まり、急に訪れる江ノ島への日帰り旅行。少女から女、そして母となりやはり女へ。転がる石のようなマユがたどる6つの旅の物語。第27回織田作之助賞受賞作。

〈BOOKデータベースより〉

 

 

 

 

 

 

 


「少女」から「女性」、そして「母」へ。

 

 

『TRIP TRAP』は旅を表すものだが、同時に「罠」という意味の言葉も含んでいる。

 

たくさんの「罠」をくぐり抜けた少女が大人の女になっていく過程が「旅」を通じて描かれている、少女の成長物語。

 

 

 

 

 

 

 

服を脱ぐ時、カツヤが胸元から肩の辺りをつかんでタンクトップを引っ張るように脱いだのを見て、ああこの人は他人なんだと思ってすごく愛おしい気持ちになった。

 

あてのない自由さと孤独感。

冷静なようで不安定で、危うい。


ひとりの女の子の成長が、微笑ましくもあり、儚く、切ない。

 

 

 

金原ひとみの作品を読むたびに、

この主人公は自分自身が投影されているんだろうなぁと思う。

 

どの作品の主人公も、感情的で依存的で、自己中心的。

 

 

相変わらずの金原節だが、他の作品と比べると相当読みやすい。

 

 

 

 

 

 

 

私はまた、この初めての子連れ旅行を経験し、自分を捨て、自分を諦め、妥協し、誰かに蹂躙されるという事の本質を感じ、ノスタルジックでセンチメンタルな生き物にまた一つ近づいた。育児の辛さや苦しみを乗り越えるたび、私は一つずつ母という実体のない概念に囚われていくのを感じていて、それに抗いたい気持ちで一杯になるもののその流れには結局逆らえないのだった。

 

帰る場所がなかった少女が、帰る場所を手にしたとき、青春は終わるのかもしれない

 

「少女」が「母」へとなり、守るものと居場所ができる。

喜ぶべきことなんだろうけど、どこか少し寂しい。

 

 

 

 

 

 

 

私たちは、サラダスピナーの中に放り込まれた菜っ葉のようにぐるぐると回され、遠心力で壁にへばりつき、運命という力に抗えないまま身動きが取れなくなっているようだ。

 

わたしは金原ひとみの言葉選びが抜群に好きだ。

 

ストーリーよりも、表現力や言葉選びのセンスを重視したい人には、ぜひともおすすめしたい。

 

 

 

 

 

 

 

【まとめ】

 

読みやすさ ★★★

言葉選び ★★★

ストーリー ★★☆

変態度 ☆☆☆

 

総合 ★★★